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2019年1月5日に開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」に向け,東響首席チェロ奏者にゲーム音楽の魅力を聞いた
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印刷2018/11/16 12:00

インタビュー

2019年1月5日に開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」に向け,東響首席チェロ奏者にゲーム音楽の魅力を聞いた

画像集 No.004のサムネイル画像 / 2019年1月5日に開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」に向け,東響首席チェロ奏者にゲーム音楽の魅力を聞いた
 2019年1月5日に東京芸術劇場コンサートホールで開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」
 これは,題名のとおり,植松伸夫氏が作曲した「ファイナルファンタジーVII」「ロスト オデッセイ」「オーシャンホーン - 未知の海にひそむかい物」などの楽曲を,迫力のオーケストラサウンドで楽しめるコンサートだ。

 4Gamerでは今回,コンサートを主催する東京交響楽団で首席チェロ奏者を務める伊藤文嗣氏に,本公演の聴きどころをうかがった。……はずなのだが,国内指折りのチェロ奏者である伊藤氏が,プロフィールに初めて好きになった曲として「スクウェア作品を中心としたゲームミュージック」と記すほどのゲーム&ゲーム音楽好きということもあり,そんな氏のゲーム音楽との出会いについても,たっぷりと語っていただいている。
 ここまでゲーム音楽愛にあふれた奏者の所属する楽団が,植松氏の楽曲を演奏するのだな……ということを記憶に刻んでいただけると幸いだ。

「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ,カンレキ!〜」告知ページ



ゲーム音楽を耳コピしていた経験が

藝大受験の試験で役に立った


4Gamer:
 リハーサルでお疲れのところ,ありがとうございます。
 普段はなかなか,プロの奏者の方にお話をうかがうことがないので,まずは伊藤さんがどんなきっかけで音楽を始めたのかを教えてください。

伊藤文嗣氏(いとうふみつぐ)
1986年神奈川県生まれ。5歳よりチェロを始め,東京藝術大学を経て,同大学院を修了。2012年より東京交響楽団に入団し,首席チェロ奏者に
画像集 No.001のサムネイル画像 / 2019年1月5日に開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」に向け,東響首席チェロ奏者にゲーム音楽の魅力を聞いた
伊藤文嗣氏:
 お,そこからですか(笑)。
 父親が趣味でジャズピアノを,母親がアマチュアオーケストラでヴァイオリンを……と両親ともに音楽が好きで,家ではジャズ,フュージョン,クラシックを聴いて育ちました。いわゆる音楽好き一家というやつですね。5歳のときに自分でチェロを選んで始めたらしいんですけど,さすがに子供過ぎて細かい理由なんかは覚えていません(笑)。
 そこから地元の先生について,チェロとピアノを同時に習い始めました。ピアノを習ったのは音感を鍛えるためです。そうして練習を続けているうちに,小学校で現れたんですよ……ゲーム音楽を弾くやつが。

4Gamer:
 現れやがりましたか!

伊藤氏:
 自分もゲームは好きでずっとプレイしていたんですど,その曲を演奏するという発想がなく,「何だこれは!」と衝撃を受けました。あとから知ったんですけど,当時ヒットしていた「スーパーマリオワールド」や「スーパードンキーコング」の楽譜が市販されていて,彼はそれを演奏していたんです。それが同級生達には大ウケで。それをきっかけに,僕もクラシックの王道教育からはずれて,ピアノでゲーム音楽を演奏するようになりました。
 誕生日やクリスマスには,レゴブロックやゲームソフトに加えてゲーム音楽の楽譜をねだって,当時出ていた「ファイナルファンタジー」シリーズや「ドラゴンクエスト」シリーズなどをピアノでひたすら弾いていました。

4Gamer:
 それを学校で披露したんですか?

伊藤氏:
 いや,そこで僕が披露しても二番煎じじゃないですか。なので家か,放課後の音楽室に忍び込んでこっそり弾いていましたね。なにしろ自己満足でしたから。
 そうしているうちにピアノだけじゃ満足できなくなって,父親が持っていたシーケンサー機能付きのキーボードを借りて,ピアノ譜にはない,リズムやバッキングのパートを,ゲームの音源を聴きながら加えていく作業に没頭するようになりました。楽譜の書き方なんかはめちゃくちゃでしたけど,そうやって耳コピをしていた経験が,東京藝術大学を受験するときに聴音の試験で役立ちましたね。

4Gamer:
 好きでやっていたことで,自然と鍛えられていたんですね。
 ところで,伊藤さんはどんなゲームを主に遊んでいたんですか?

伊藤氏:
 自分が最初に買ってもらったのはスーパーファミコンの「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」でした。ただ,兄姉がいるので,それ以前から「スパルタンX」や「アイスクライマー」といったファミコンのタイトルも遊んでいました。アクションやパズルなど何でも遊びましたけど,何より好きだったのはスクウェア(当時)のゲームでしたね。
 とくに植松さん,イトケン(伊藤賢治)さん,光田康典さんの曲はめちゃめちゃ聴きました。一方で,ドラゴンクエストシリーズにも思い入れがあったので,スクウェアとエニックスと合併すると知ったときには「マジかよ!」と興奮しました。

4Gamer:
 あのニュースにリアルタイムで触れたゲーマーは,誰もが驚きましたし,いろんな想像が膨らんだものですよね。

伊藤氏:
 ええ。で,中学〜高校時代は音ゲーも相当遊んでいました。兄がBEMANIシリーズにハマっていたこともあって,家に「ビートマニア」の専用パッドがありましたし,お小遣いをもらったらジュース1本を我慢して,その分ゲーセンに通って,主に「ギターフリークス」と「ドラムマニア」をやっていました。
 そうしてプレイを続けていると,地元のゲーセンに音ゲー仲間が増えていくので,「今度セッションしようぜ!」とか言って楽しんでましたね。一番好きだったのがプログレを得意とした佐々木博史さんというコンポーザーで,「The Least 100sec」という超絶難度の曲をクリアできれば一人前と言われていたんです。これも,楽曲をピアノ譜に書き起こしたりしていました。

4Gamer:
 あの超絶難度の曲を譜面にできるなんて……。
 ではその頃には,市販されている楽譜は買わなくなっていたんですか?

伊藤氏:
 いえ,楽譜が存在しないものは自分で作っていましたが,市販のものも弾いていました。高校生の頃にはピアノ上級者に向けた「ファイナルファンタジーVII」の楽譜が売られていたので,それを演奏したりしていましたね。それを藝大のピアノの授業で演奏したら,ブラームスコンクールで優勝しているような先生に「???」という顔をされ,スッとバッハのフーガの楽譜を置かれました(笑)。

4Gamer:
 大学入学後もゲーム音楽には触れ続けていたんですか?

伊藤氏:
 そうですね。とはいえ,チェロだけは自分の中でクラシックに寄り添うものだという線引きがあったので,大学生,プロ奏者となるにつれて,脳のリソースはゲーム音楽からクラッシックのほうに割かれるようになりました。レベルの高い先輩や先生に出会えば出会うほど,クラシックの奥深さを思い知らされますから。それでもゲーム音楽は“楽しかったモノ”として,僕のルーツであり続けています。それに,バイオリズムみたく「この曲が聴きたいな」という波があるので,たまに引っ張り出して聴いたりはしています。

4Gamer:
 一つのルーツとして,ゲーム音楽というジャンルは伊藤さんの中で非常に重要なものである,と。

伊藤氏:
 ええ。それが最近ではお客さんの前でゲーム音楽を演奏をする機会もちょくちょくあって,夢がかなったような気分ですよね。それこそ当時憧れた,すぎやまこういちさん,植松(伸夫)さん,イトケン(伊藤賢治)さん,光田(康典)さん達にお会いすることもできましたし,4Gamerさん主催の「ワンダと巨像」コンサート(関連記事)もそうでしたが,名作の曲を演奏できるのが嬉しいです。

4Gamer:
 演奏家となってゲーム音楽を演奏する機会が増えたことは,伊藤さんにとって嬉しいことなんですね。

伊藤氏:
 それはもう。昔は一人でピアノを弾くだけだったので孤独でしたけど,今では同じような思いでゲーム音楽が好きな人達と出会えるようになったのも嬉しいことなんですよね。
 以前,「4starオーケストラ2015」というイベントで一緒に演奏をした神永大輔さんは,尺八奏者なのにゲーム音楽が大好きという方でしたし(笑)。とくにゲーム音楽の演奏って,仲間がいないと生演奏ができないんですよね。
 そしてこういう輪が広がった先に,ゲーム音楽のスタジオ収録の仕事が巡ってくることもありました。これまでやってきた“再現”とは違う,オリジナルのサウンドトラックに携われたときは,非常にワクワクしまました。


どこで披露するでもなく

ゲーム音楽を弦楽四重奏などに編曲


4Gamer:
 プロの奏者の中に,ゲーム音楽が好きな方はどれぐらいいらっしゃるんですか?

画像集 No.002のサムネイル画像 / 2019年1月5日に開催される「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」に向け,東響首席チェロ奏者にゲーム音楽の魅力を聞いた
伊藤氏:
 藝大のときは,小さな頃からクラシックの英才教育にどっぷり漬かっている子達が多かったので,周囲には数えるほどしかいませんでした。でも,学校のチェンバー(選出)オーケストラの演奏旅行でウィーンに行ったとき,同室になったヴィオリニストの先輩が,MDプレイヤーで僕も大好きな「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の曲を聴いていたんですよ。そんな偶然ってある? ってくらいにドンピシャで,そこからはずっとゲームの話をしていた思い出があります。

4Gamer:
 ヨーロッパに行くからには現地で聴きたい音楽だったんでしょうか(笑)。ともあれ,思わぬきっかけで仲間を見つけられたんですね。

伊藤氏:
 ええ。今ではおかげさまで,いろいろなオーケストラで客演させていただく機会が増えたんですが,ゲーム音楽のコンサートのときって,同じステージの上にいると「あ,この人はゲーム音楽が好きなんだな」っていう奏者が,見て分かるんですよね。感じるオーラは小さいけれど,ものすごい情熱を持って弾いているのが伝わってくるので。
 オーケストラって調和が大切な部分もあるので,そういう情熱はある程度オブラートに包んでいるはずなんですけど,それでも溢れ出てしまうくらいの熱量があるんですよ(笑)。東京交響楽団にも何人かそういう人がいて,演奏中に「このパート,いいよね」と目が合うこともあります。

4Gamer:
 演奏中にそんなコミュニケーションが行われているとは……。

伊藤氏:
 実はそうなんですよ。
 これはちょっとした野望なんですけど,いつか各プロオケに散らばっている隠れゲーム音楽ファンだけを集めて演奏会をやれたら,とんでもないことになると思うんですよね。普段は抑制しているモノを,その日は解放していいんだよって(笑)。

4Gamer:
 素敵ですね。でも,曲目を決めるときに揉めそうな気もします(笑)。

伊藤氏:
 「それちょっとベタ過ぎない?」「これはコア過ぎるでしょ」とか,意見は分かれますよね。そのうえで「やっぱりチケットが売れないと困るから無難なところで」という形で落ち着くかもしれませんけど。

4Gamer:
 ちなみに,ご自身でゲーム音楽の作曲を試みたことはありますか?

伊藤氏:
 学生時代に曲作りにチャレンジしたことはあります。FFの次々回作くらいならまだ作っていないだろうと思って,“仮想FFバトル曲”のスコアを作ったことがあるんです。それを音楽の宿題として提出したんですけど,先生からすると予想を超えたものだったらしく「いいんじゃない」という薄い反応でした(笑)。
 とはいえ,元の曲が好きだったのでそれを踏襲して似たようなものを書いただけですから,それがオリジナルかと言われるとちょっと恥ずかしいものはあるんですけどね。

4Gamer:
 次々回作を想像して実際に作曲するという行動は,オリジナリティにあふれていると思います(笑)。
 では,編曲などはされないんでしょうか?

伊藤氏:
 趣味の領域ですけど,ファイナルファンタジーや「ロマンシング サ・ガ」「クロノ・トリガー」の曲を,チェロカルテットや弦楽四重奏にアレンジしてみたことはあります。どこにも披露する予定はないんですけど。

4Gamer:
 それはぜひ,聴いてみたいものですが……。

伊藤氏:
 ただまあ,昨今は動画投稿サイトの“演奏してみた”系でも,すでに愛のこもった演奏がアップされていたりしますし,同じことをしても,ね。

4Gamer:
 小学生時代同様,二番煎じはやりたくない,と(笑)。


2019年1月5日のコンサートでは,

生のオーケストラならではの迫力を体感してほしい


4Gamer:
 さてそろそろ,2019年1月5日開催の「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ、カンレキ!〜」についても聞かせてください。奏者の立場から見て,どんなコンサートになりそうでしょう?

伊藤氏:
 まだ演奏曲のすべてはお話できないんですが,FF VII,「ロスト オデッセイ」「オーシャンホーン - 未知の海にひそむかい物」のメインテーマを演奏します。当日はほかにも,植松さんが好きなオーケストラ楽曲を演奏し,植松作品のルーツを探ったりもする予定です。

4Gamer:
 となると,東京交響楽団の演奏をさまざまな楽曲で堪能できる公演になりそうですね。ゲーム音楽の場合,どんな編曲になるんだろう? というのも気になるポイントです。

伊藤氏:
 それこそメインテーマ以外のFF VII楽曲って,ドラゴンクエストシリーズとは違ってシンフォニックなだけじゃないんですよね。世界観がスチームパンクなだけあって,ナチュラルなものとエレクトリックなものとが融合している部分があります。そうするとクラシカルな楽器だけでは再現ができず,ドラムや打ち込みのパートが必要になるかな……? ということもあります。僕自身はどの曲も好きなので,「なんでも来い!」という感じで演奏できるのを楽しみにしています(笑)。

4Gamer:
 それは頼もしい限りです!
 ゲーム音楽とはいえ,オーケストラのコンサートとなると身構えてしまう読者もいるかと思うんですが,オーケストラならではの魅力って,どこにあるんでしょう?。

伊藤氏:
 一番の魅力は,壮大なスケールですね。ライブであることはもちろんですが,CDでは得られない「電気の力を使っていないのに地響きのような音が出るのか!」という迫力を感じてもらえると思います。
 ゲーム音楽というと,普段はTVのスピーカーやヘッドホンで聴くことが多いと思うのですが,専用のコンサートホールで聴くという体験は,演奏する人間の熱量もプラスされて感動につながると思います。FF VIIのテーマなんか,生音で聴いたら涙してしまうような気持ちになれると思いますよ……僕も本当は客席で聴きたいくらいです(笑)。

4Gamer:
 客席で聴くというのは,ある意味,演奏するよりぜいたくなことなのかもしれません(笑)。

伊藤氏:
 ぜいたくと言えば,当日はスペシャルゲストとして植松伸夫さんにご登場いただく予定です。
 年内の休養が発表されていますので,どういった形でご登場いただけるかは未定の部分もあるのですが,2019年に復帰予定と伺っているので,このコンサートが復帰第一弾になってくれたなら嬉しいですね。

4Gamer:
 年が明けるのが楽しみになってきました。
 今日はありがとうございました。

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「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤー・スペシャル THE UEMATSU WORKS 〜ノビヨ,カンレキ!〜」告知ページ


※撮影協力:ミューザ川崎シンフォニーホール
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